「慣れ」が生む悲劇

早すぎる過去問演習が子どもの英語力を壊す理由

· 塾長の指導観・雑感

宇都宮市英語専門進学塾EX 塾長のブログ

2026年の共通テストまで、あと2か月あまりとなりました。高3諸君は共通テスト対策がいよいよ本格化する時期です。

 

毎年夏休みになると、未熟な指導者のいる塾では同じ光景が繰り広げられます。

 

英文解釈の訓練も、語彙の体系的な習得も不十分なまま、高校3年生に共通テストの過去問や模試の過去問を次々と解かせていく――。

 

そして秋頃には「夏の成果」として、模試の点数が10点、20点と上がったという報告が保護者のもとに届く。この数字を見て安心する保護者の方も少なくありません。
 

しかし、私が長年この仕事を続けてきて断言できるのは、この指導法こそが、共通テスト本番で最も結果を出せない指導パターンだということです。


なぜか。それは「慣れ」という魔物が、真の学力向上を覆い隠してしまうからです。
 

共通テストの英語には、確かにパターンがあります。設問の形式、頻出する話題、時間配分の感覚

 

――これらに「慣れる」ことで、基礎力が不十分でも点数はある程度上がってしまいます。

 

例えば、精読する力がなくても、「この手の問題なら消去法でいける」「図表問題は選択肢から逆算すればいい」といったテクニックで、30点だった生徒が夏明けに50点を取ることは珍しくありません。


ここに悲劇の種が埋め込まれます。
 

生徒も保護者も、そして時には指導する側も、この20点の上昇を「成長」だと錯覚してしまうのです。

 

しかし実際には、英文構造を正確に把握する力も、文脈を追って論理を読み取る力も、何一つ向上していない。ただ出題パターンへの「反射神経」が鍛えられただけなのです。
 

この状態で本番を迎えた生徒がどうなるか。

 

わずかに出題傾向が変わったり、見慣れない語彙が登場したりするだけで、途端に崩れます。

 

模試では55点取っていたのに本番では35点

 

――こうした「本番の失速」がおきてしまうのです。


一方、春から初夏にかけて英文解釈の基礎訓練を徹底し、語彙を体系的に身につけさせた生徒は違います。

 

夏の時点では点数が伸び悩んでいても、秋以降に着実に力を発揮し始め、本番では安定して高得点を叩き出すのです。
 

具体的に申し上げましょう。昨年指導したAさんは、7月時点で共通テスト形式の問題では40点程度でした。しかし彼には、短文を正確に訳すことを軸にした構文把握の訓練と、語彙を増やす学習を半年間続けてきた土台がありました。

 

夏は焦らず長文の精読を継続し、9月から過去問演習を開始。すると10月には80点を超え、本番では85点を獲得しました。
 

英文解釈の訓練で養われる構文把握力や、体系的な語彙学習で得られる推測力は、どんな英文にも応用できます。

 

一方、過去問の「慣れ」は、その問題形式でしか通用しない。しかも本番では緊張も加わり、普段の「パターン認識」すら狂ってしまうのです。
 

保護者の皆さんにお伝えしたいのは、模試の点数に一喜一憂する前に、「お子さんは英文の構造を正確に把握できているか」「未知の単語に出会ったとき、文脈から推測する力があるか」を問うてほしいということです。
 

点数は結果であり、プロセスではありません。基礎を飛ばして結果だけを追い求める指導は、砂上の楼閣を築くようなものです。

 

真に保護者として見極めるべきは、塾が「今すぐ見える成果」を追っているのか、それとも「本番で崩れない本物の力」を育てようとしているのか、その姿勢なのです。