なぜリスニングができないのか?読解速度という見落とされがちな盲点

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宇都宮市英語専門進学塾EX 塾長のブログ

「リスニングが全然できなくて…」
保護者面談でこうした相談を受けるとき、私はまず「お子さんは英語の長文をスムーズに読めていますか?」と尋ねます。

 

多くの場合、保護者の方は意外そうな顔をされます。リスニングの相談をしているのに、なぜ読解の話が出てくるのか、と。
 

実はここに、多くの生徒がリスニングで伸び悩む本質的な理由が隠れています。
 

一般的に「リスニングが苦手」と言うとき、多くの人は「英語の音に慣れていない」「発音が聞き取れない」といった「耳の問題」だと考えます。

 

しかし長年この仕事を続けてきて気づいたのは、リスニングの壁の大半は「耳」ではなく「脳の処理速度」にあるということです。
 

試しに考えてみてください。文字として書かれている英文を、辞書を引きながらゆっくり時間をかけて、ようやく理解できる。そんな状態で、一度流れたら二度と戻ってこない音声を、リアルタイムで理解できるでしょうか。
 

リスニングは「耳から入った音を理解する」作業ですが、その処理は読解と同じ脳の働きを使っています。

 

違いは情報が「目から文字として入るか」「耳から音として入るか」だけ。文字情報すら瞬時に処理できない段階で、音声情報を扱うのは無理な話です。
 

共通テストのリスニング問題を例に取りましょう。音声は1分間に150語程度で流れます。

 

一方、多くの高校生の読解速度は1分間に80語から100語程度。読んで理解する速度の1.5倍から2倍近い速さで情報が流れてくるのです。
 

では、どうすればこの処理速度を上げられるのか。
 

まず大前提として、単語と熟語を見た瞬間、聞いた瞬間に意味が浮かぶレベルまで習得することです。

 

「この単語、何だったっけ」と考えている間に、次の文が流れてしまいます。
 

そして重要なのが、「英語を意味のかたまりとして把握する力」を養うことです。

 

日本語を読むとき、私たちは一文字ずつ読んでいません。意味のかたまり、文節ごとに視線を動かし、瞬時に内容を理解しています。英語でも同じことができなければ、処理速度は上がりません。
 

このための最も効果的なトレーニングが「音読」なのです。
 

「音読なんて古臭い」と感じる方もいるかもしれません。以前は「英語を聞き流すだけで上達」といった学習法も人気でした。その会社は倒産しましたが。

 

音読には合理的な理由があります。
 

音読は、目で文字を追い、意味を理解し、それを声に出すという一連の作業を、制限時間内に強制的に行わせるトレーニングです。

 

黙読なら途中で止まって考えることもできますが、音読では立ち止まれません。この制約が脳に高速処理を強いるのです。
 

さらに、自分の口で正しく発音できない音は、耳で聞いても認識できないという研究結果があります。

 

音読を繰り返すことで、英語の音とリズムが身体に染み込み、リスニング能力も向上します。
 

最初は詰まりながら読んでいた文章が、繰り返すうちにスムーズに、意味を意識しながら読めるようになる。地道な反復の力を実感する瞬間です。
 

英語学習に魔法のような近道はありません。「聞き流すだけ」といった教材は、脳に負荷をかけないため、本質的な力を育てることができません。
 

リスニング力を伸ばしたいなら、まず読解速度を上げる。読解速度を上げたいなら、音読で脳の処理速度を鍛える。遠回りに見えるこの道こそが最短ルートです。