塾や予備校の広告で、「ライバルに差をつけよう」「同級生に負けるな」といったフレーズを目にすることがあります。競争心を刺激するこの手の言葉は、確かに一時的な発奮材料にはなるのかもしれません。
しかし私はこうしたフレーズに、いつも小さな違和感を覚えます。
勉強の意義とは、本当にライバルに勝つことなのでしょうか。
もちろん、大学入試も含めて、多くの試験は相対評価で合否が決まります。周囲の受験生よりも高い得点を取ることが、結果として合格につながる。それは動かしがたい事実です。しかしそのことは、勉強という営みそのものの意義が「他人に勝つこと」にあることを意味しません。手段と目的が混同されているように思うのです。
私は、勉強の本質は「自分との戦い」にあると考えています。古くから東洋で語られてきた「克己」——己に克つという言葉が、勉強のあり方をよく表しているように感じます。
昨日までの自分に、今日の自分がわずかでも勝つ。できなかったことが、できるようになる。理解が浅かった箇所を、深く理解し直せるようになる。この一つひとつの積み重ねが、勉強の本当の意味だと考えています。
そう捉えれば、「ライバルに差をつける」という発想の危うさも見えてきます。仮に自分が「ライバル」と定めた誰かが、たまたまその時期に怠けているとします。その人を基準に自分を評価するなら、自分もほどほどにやっていれば安心できてしまう。
逆に、その「ライバル」が実は陰でしっかり努力していたとしたら、こちらは焦って空回りするかもしれません。誰かを基準に自分を測る方法には、こうした揺らぎが常につきまといます。
それに対して、「昨日までの自分」を基準にする方法には、揺らぎがありません。昨日わからなかった英単語が今日はわかる。昨日読めなかった英文が今日は読める。この事実は、他人がどう動こうと変わることがありません。自分の中に、確かな指標を持つことができます。
もちろん、友達に負けたくない、志望校に合格したい、といった感情そのものを否定するつもりはありません。それらは自然な感情ですし、勉強に向かう最初のきっかけとして機能することもあります。
ただ、その感情を出発点として動き始めたあと、実際に力をつけるための道筋は、結局のところ「自分を鍛える」ことしかありません。他人と比べて一喜一憂している時間があるなら、自分の弱点を一つでも埋める方が、はるかに合理的です。
英語という教科は、特にこの「自分との戦い」が試される科目だと感じます。語彙、文法、読解、リスニング——どれも、地道な積み上げの中で、昨日までできなかったことが少しずつできるようになっていく。派手な逆転劇よりも、静かな克己心の積み重ねが、最終的な英語力を形作っていきます。
お子さんがこれから本格的に勉強と向き合っていくにあたって、「誰かに勝つ」というフレームではなく、「昨日の自分に少しだけ勝つ」というフレームを持っていただけたらと思います。
そのフレームで日々を積み重ねられた生徒は、結果として、周囲との比較の中でも自然と高い位置に立っていることが多いものです。競争を勝ち抜くための最短距離は、実は競争のことを忘れて、自分の学力そのものと真剣に向き合うことなのかもしれません。
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